2016-02-10

向井滋春さんの「引き算の美学」

いやぁ参りました。
前回が2004年2月でしたから、12年ぶり。
干支が一周りしてインフルエンザ(A型)にかかってしまいました。

そんなこんなで、せっかく1月28日(木曜日)に大阪・梅田「ロイヤルホース」で、ジャズトロンボーンの向井滋春さんのライブに行ったのに書くのが遅れていました。

「トロンボーン」をブログの前面に出しながら、これはダメですよね。

で、そのライブのプレーヤーは向井さんのほか竹下清志(ピアノ)▽時安吉宏(ベース)▽マーティー・ブレイシー(Ds)=敬称略。

向井滋春=2016年1月28日、大阪・梅田「ロイヤルホース」

向井さんは今年1月21日で67歳(Wow!)。
ものすごく僭越で畏れ多いことを申し上げるのですが、
1年ほど前のライブではスタート直後の2曲は少し音が失速というか、張りがない印象を受けました。
もちろん途中からいつも通りの調子になったのですが、
お年を考えると、それは当たり前のことで、これからはそれも味になっていくのかな、と誠に分際をわきまえぬ生意気をことを考えておりました。

ところが、きょう(1月28日)の演奏は最初から張りがあって、向井さん独特の優しいファルセットみたいな高音が会場を魅了しました。

ポルトガル語で「9月」を意味する向井さん作曲の「Setembro」や、
モダン・ジャズのトロンボーン奏者の頂点を極めたJ.J.ジョンソン(1924~2001年)の「Lament」を向井さん定番の五拍子…。


音楽を聴くためだけに今、この自分が存在していたような感覚になりました。
言い換えると、他のことは何も頭に浮かんでいない。
もちろん、その時点では、そんなことは意識していないのだけど、自分がライブ会場にいることすら忘れていたことに気づいて、我に戻る感覚がありました。

気になったのは向井さんの楽器にいつもついているバランサーがなかったこと。
バランサーというのはトロンボーンのベル部分の管がU字になっている部分の間の支柱についている「おもり」みたいなものです。
だいたい楽器メーカーのロゴなんかついています。円形がほとんどです。

「プラス」の呪縛

向井さんに聞いてみたら、バランサーがついていないのはあまり意味はないようで、楽器を「KING 3B+(プラス)」から「KING 3B」に変えたとのことでした。

「+」の有無でどう違うか、というとボア(管)の内径が違うのです。
「3B」は12.90mmなのに対し「3B+」は13.34mm。
つまり後者の方が太いので、たくさん息が入るといえます。

で、向井さんは何故「3B」にしたのか?

答えは「しんどくなっちゃって」だそうです。
やはり太い方がたくさん息が必要になって、より体力が必要なのでしょう。
とはいえ、聴いている方としては、
違和感はなし。
それよりも「3B+」だった1年前のほうが、
先述したように“変化”を感じたほどです。

つまり加齢に伴う体力の変化をテクニックと経験、そしてふだんの研鑽でカバーされたのですね。

「引き算の美学」とも言えるかもしれません。

自分自身の変化に柔軟に対応するって簡単なことのようで、
なかなか、そうはいかない。
それは自分自身が馬齢を重ねて身にしみているので、難しさがよくわかります。
あんまり物事に変わってほしくないし、なるべく変わってほしくないのねん。

…というわけで、僕も自分の避けれない変化には敏感に対応し、そして避けられる劣化は遅らせるように努力しないと素直に思いました。

「+」を捨てて拓ける道もあるんですね。

年齡に反比例して自分に何かが欠けてきているような気がしてたので穴埋めするために「足す」ことばかり考えていました。

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